NRI不動産DXチーム

NRI不動産DXセミナー
- Withコロナ時代の不動産ビジネスについて皆様と考える -

【開催レポート】

COVID-19は不動産市場にどのような環境変化をもたらすのか

 

 NRIおよびNRIデジタルは、2020年8月3日(月)、Zoomミーティングにて「第3回 不動産業界におけるデジタルトランスフォーメーションセミナー(不動産DXセミナー)」を開催しました。2018年より毎年開催し、今回で3回目となる本セミナーは、初の試みとなるオンラインでの開催となり、COVID-19蔓延により不動産ビジネスがどのような影響を受けるのか、をテーマとして掲げました。

 2部構成で開催した本セミナーでは、第1部でNRIより基調講演を、第2部でウェビナーにご参加いただいた皆様に、NRIの不動産業界に詳しい専門家を交えてのディスカッションセッションを実施しました。

第1部では、NRIコンサルティング事業本部・上席コンサルタントの榊原渉が、NRIとして考える、COVID-19が不動産ビジネスへ及ぼす環境変化を発表し、第2部の論点として提示しました。
第2部では参加者を5グループに分け、NRIよりファシリテーター及び専門家が各グループへ参加して、活発な意見交換を行いました。

 当日の様子と講演・議論の内容を写真とともに簡単に紹介します。

1部(Withコロナ時代の不動産ビジネス)

不動産の価値が、空間軸×時間軸で再定義される

 NRIコンサルティング事業本部・上席コンサルタントの榊原渉は「Withコロナ時代の不動産ビジネス」と題して、不動産ビジネスが受けるCOVID-19の影響を3点にまとめて提言しました。

添付写真①

 

 1つ目の環境変化として指摘したのは、不動産価値の再定義でした。オフィス面積縮小が行われている各社の事例を紹介したうえで、代替となる時間貸しのフレキシブルオフィスの拡大を指摘しました。昨今のフレキシブルオフィス業界には、カラオケ店やホテル等の参入が相次いでおり、不動産の価値が「賃料(月×坪)から、利用料(時・分×機能)に変わる」と話しました。

 

価値観が先鋭化され、選択の自由度が求められる

 2つ目の環境変化として指摘したのは、不動産においてこれまで重視されてこなかった価値が、新たな価値として重視されるようになることでした。

 生活のあらゆる場面でCOVID-19への感染リスクを孕むコロナ禍においては、非接触・非対面が新たな価値として浮上してきます。榊原は非接触・非対面がどのように不動産の価値へと繋がるかを、米国の不動産サービス大手のCushman & Wakefieldによる「ソーシャルディスタンシングオフィス」を事例として挙げながら示しました。ソーシャルディスタンシングオフィスとは、床の塗装が特徴的なオフィスであり、座席より6フィートに円を描くことでソーシャルディスタンスの確保を容易とするデザインのオフィスです。

 一方で榊原は、リモートワークの普及によって見えてきたリアルの場の価値として、「意図せざる出会い」の創出を挙げました。意図せざる出会いを求める各方面のニーズを紹介しながら、これからリアルの場で求められる価値として、意図せざる出会いの創出力があることを指摘しました。

不動産・住宅ビジネスのOMO*が加速する   *Online Merges with Offline

 榊原は3つ目の環境変化として、リアル空間とバーチャル空間の更なる融合が求められること、そしてそれが新たな顧客体験の創出へ繋がることを、複数の事例を交えながら指摘しました。

 中国でスーパーマーケットを展開する盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)では、アプリから商品を注文すると、商品が従業員によってピッキングされ、配送されるという新しい顧客体験を提供しています。

 アリババは杭州に、テックを詰め込んだFlyZooホテルをオープンし、館内全域でAIやロボットを活用した無人化・自動化を進めます。ホテルであっても鍵は存在せず、予約からチェックイン・施錠・チェックアウトまで全て顔認証で完結します。iPhoneの顔認証など、従来は脇役としての価値提供に留まっていた顔認証ですが、ここでは主役となることで完全非接触を実現し、新たな顧客体験を提供しています。

2部(参加者によるディスカッションセッション)

 

 第2部では参加者を5グループに分け、NRIからも数名が参加して、各グループ計10名前後でディスカッションを行いました。

 第1部で示した3つの環境変化に関連した議論を中心に、withコロナ時代を見据えた各社の取り組み紹介を交えながら、それぞれのグループでディスカッションは進められました。

 

 環境変化1「不動産の価値が、空間軸×時間軸で再定義される」に対して、あるグループではオフィスニーズは変わらないのではないかという意見も出ました。「現在、オフィス面積を縮小している企業は“デジタルツールの活用が進んでいる先進的な企業”、もしくは“自社のオンラインツールをアピールしたい企業”のどちらかであり、多くの大企業はそのどちらにも該当しない。」と、オフィス面積縮小を決めた企業の裏に存在する、オフィス面積縮小に踏み切れない多くの企業の存在を指摘しました。

 

 環境変化2「価値観が先鋭化され、選択の自由度が求められる」については、「リアルな場」が提供する価値は果たして何なのかという議論が白熱しました。今後は「意図せざる出会い」の創出力が問われる、という点に多くの賛同があった中で、リアルな場に求められる価値とそうでないものを判断する軸の提示もありました。

 

 環境変化3では、OMO(Online Merges with Offline)へ移行する際の課題に着目した議論が行われました。「バーチャル空間の活用、無人化、自動化については中国がとても速いスピード感で進めている。日本がそのスピードについていけるのかは疑問である」といった対中国視点の意見や、「不動産の営業の立場では非対面で業務を進めるのは限界がある」といった営業ならではの意見など、OMO移行の難しさ・限界に焦点があてられた議論となりました。

総括

 

 当日、主催メンバーはNRI CODOへ集結し、初の試みとなるウェビナーの運営を協働して行いました。組織を横断した運営体制にもかかわらず、事前に重ねた打ち合わせのおかげもあってか、映像・音声の確認やブレイクアウトセッションへの振り分け等の慣れない運営業務も、大きな問題が発生することなく完遂することができ、好評のうちにセミナーを終了することができました。

 

添付写真②